ある平日の朝8時半頃、ロイヤルパークホテルでつけ待ちをしていると、年の頃40歳前後であろうかキャリアウーマンらしき女性が乗ってきた。
「朝日新聞社までお願いします」
「新大橋通りをずっといって、ガンセンターの向かいの所の、、、ですか?」
「はい、そうです、少し急いでますので、道案内しますね」
「畏まりました」
当時の自分はまだ、ようやく新人の腕章が外れた位のタクシー運ちゃんとしては駆け出しのペーペーで、道案内してくれると聞いてホッとしたものだった。
ロイヤルパークホテルの乗り場から一般道を右に出るとすぐに信号があり、その信号を右に行けば水天宮の交差点がある。水天宮の交差点を左にいけば、はれて新大橋通りである。
ところがその信号に出るなり
「真っ直ぐ行ってください」
「畏まりました」
箱崎ICの入り口に向かって高速と並行するように行く細い道だ。自分としてはロイヤルパークから出て初めて通るルートであった。緊張感が走る。
「インターギリギリ手前の一通を右に入って下さい」
「はい、畏まりました」
自分としては知らない道であるため、ナビの縮小を50メートルにして、どこを右に入るか目星をつける。(インター手前の2つはどちらも逆一通で入れない。となると手前3つ目の次の交差点かな。)などと当たりを付けていると案の定
「次の一通です、右に入ってください」
「畏まりました」
「新大橋通に出たら、あとはそのまま行って下さい」
「畏まりました」
先ほどからオウムのようにほぼ「畏まりました」しか言えていないのだか、特に問題ないであろう。言われた通り粛々とこなすしかない。
あとは新大橋通りをひたすら真っ直ぐだから余裕だぜぃ、などと思って安心しているとさらなる指示が入る。
あ、こちらのレーンは詰まっているので隣に行って下さい。あ、また今度は右のレーンで。あ、このままのレーンで大丈夫です。あ、また左のレーンに戻して下さい。
空いてるレーンをレーシングゲームでぬっていくかのように、レーン移動の指導が入る。急いでいる人は、こうやって少しでも走らせて時間を稼ぐことを望むのか…
新人乗務員として、目から鱗が落ちる思いであった。これ以降、レーン移動というものを自分の中に取り入れた最初のきっかけになったと言ってもいい出来事だった。そして今でもこの教えをブラッシュアップさせて、少しでも早く行けないか、レーン移動を模索して走らせている日々なのである。
築地4丁目の交差点を過ぎた頃、こちらからも言葉を発してみる。
「まもなく、あ、あの交差点(中央市場前交差点)を右で宜しいでしょうか?」
「はい、お願いします。曲がったら切れ目の所でお願いします。」
「はい、畏まりました」
無事?時間内に到着したのか、ありがとう御座いました、と降りて行かれた。
ふぅ、自分より道を知っていて、仕事の出来そうなキャリアウーマンは緊張する。新人の自分にはなかなかのプレッシャーを感じさせるお客様だった。同時にタクシー運ちゃんとして、重要な何かを教えてくれた人でもあった。
しかもなんとこのお客様、実はこの2か月後位にまたお乗せすることになるのである。また、ロイヤルパークから。
その時はどうなったのか、こうご期待!
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